大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 平成4年(行ツ)138号 判決

兵庫県芦屋市三条町二八番一号

上告人

延原千恵子

右訴訟代理人弁護士

大西佑二

明尾寛

兵庫県芦屋市公光町六番二号

被上告人

芦屋税務署長 伊藤勝晧

右指定代理人

村川広視

右当事者間の大阪高等裁判所平成三年(行コ)第二号所得税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が平成四年四月三〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

一  上告代理人大西佑二、同明尾寛の上告理由第一、二点について

原審の適法に確定した事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

二  同第三点について

原判決の説示中、所論指摘の説示部分が適切を欠くことは否定し得ないが、原判決のその余の説示を併せ読むならば、原審は、第一審判決添付別表八ないし一一の順号1ないし33の不動産の賃料収入のうち、上告人の相続分に相当する分(ただし、上告人は、右不動産のうち同表の順号21ないし30の物件については、その持分四分の一を河野利貞に譲渡したので、右各物件に係る賃料については、右譲渡時以降は、右四分の一を控除した持分に相当する分)が、上告人の係争各年分の不動産所得に係る収入金額となるとの見解に立ってされた本件各再更正及び本件各再決定を適法であると判断していることが明らかであって、所論指摘の説示部分は、これと異なる見解に立つ上告人の主張を排斥する趣旨を説示するものであると容易に理解することができる。論旨は、原判決の結論に影響しない誤記をとらえて理由齟齬の違法がある旨を主張するに帰し、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判所裁判官 大西勝也 裁判官 中島敏次郎 裁判官 木崎良平)

(平成四年(行ツ)第一三八号 上告人 延原千恵子)

上告代理人大西佑二、同明尾寛の上告理由

一、原判決は国税通則法第一五条、所得税法第二六条の解釈適用を誤り、その違法が判決に影響を及ぼすこと明白であると共にその理由において論理矛盾の違法を犯している。

1 原判決は第四理由二1において「一般に所得税に関して課税対象である収入の原因となる権利が確定する時期をもって課税するのが公平を期する上で妥当であり、賃貸人である共同相続人の間に相続分について争いがあり、その結果個々の共同相続人に対して支払うべき賃料額が不明確であって、賃借人がこれを債権者不確知の一場合であるとして賃料の全額を供託しているときは、徴税政策上の技術的見地から契約又は慣習により定められているものについてはその支払日、それが定められていないときはその現実に支払いを受けた日をもって課税するのが相当である。これを本件についてみるに、控訴人を含む相続人らは観太郎の賃貸人としての地位を相続によって承継したのであるから、当該不動産所得の総収入金額の収入すべき時期は、観太郎と延原倉庫との賃貸借契約による賃料の支払日となるところ、乙第一七号証の一ないし五、甲第二二号証の四ないし一〇によれば、その支払日は遅くとも毎月末日であると認められるから毎月毎に支払い日が到来し、賃料債権が発生していることとなる。したがって、控訴人の延原倉庫に対する賃料債権は、前年四月一日から当年三月末日までの分が、支払日である当年三月末日に所得税に課税対象となるべき収入の原因となる権利として確定したものというべきである。」と認定している。

2(一) 原判決が「一般に所得税に関して課税対象である収入の原因となる権利が確定する時期をもって課税するのが公平を期する上で妥当であり、その確定する時期を契約又は慣習により定められているものについてはその支払日、それが定められていないときにはその現実に支払を受けた日をもって課税するのが相当であるとし」、「本件においては観太郎・延原倉庫との賃貸借契約による賃料の支払日となるとし、その支払日は遅くとも毎月末日であると認められるから毎月毎に支払い日が到来し、賃料債権が発生していることとなる。」と認定した上で、

(二) 「したがって控訴人の延原倉庫に対する賃料債権は前年四月一日から当年三月末日までの分が、支払日である当年三月末日に所得税の課税対象となるべき収入の原因とする権利として確定したものというべきである」と認定している。

右(二)の認定のうち「支払日である当年三月末日に」とある「支払日である」の意味が不明であるが、それはさておき、本件においては観太郎と延原倉庫との契約によると当年三月末日に収入の原因となる権利として確定していると認定している。

3 上告人は基本的に観太郎と延原倉庫との賃貸借契約の存在を否定するものであるが、観太郎と延原倉庫との契約が存在すると仮定してその権利の確定する時期を当年三月末日と認めることにはやぶさかではなく、また一般論として権利が確定する時期を契約または慣習により定まっているときはその支払日、定まっていないときは現実に支払を受けた日とすることには異論はない。

4 ところで、権利が確定するというからには賃料債権でいえば取得すべき賃料額が当然確定していなければならないはずである。

ところが、本件は原判決がいみじくも正当に認定しているように「賃貸人である共同相続人の間に相続分について争いがあり、その結果個々の共同相続人に対して支払うべき賃料額が不明であって、賃借人がこれを債権者不確知の場合であるとして賃料の全額を供託している」場合であり、上告人が取得すべき賃料額が確定していないにもかかわらず「権利として確定したもの」と認定するのは国税通則法第一五条、所得税法第二五条の解釈適用を誤り、またその理由において明白な論理矛盾の違法を犯しており、破棄を免れない。

二、原判決は民法二五二条の解釈適用を誤り、その違法が判決に影響を及ぼすこと明白であり、さらにその理由において明らかな論理矛盾を犯していると共に審理不尽の違法がある。

1 民法二五二条の本文は「共有物ノ管理ニ関スル事項ハ前条ノ場合ヲ除ク外各共有者ノ持分ノ価格ニ従ヒ其過半数ヲ以テ之ヲ決ス」とあり、右規定は共有物の利用について共有者間で意見を異にし、その帰着を見ない場合に協議の上その持分の価格の過半数で決めることを規定したものと解釈される。

2 ところで、上告人を含め亡観太郎の相続人間でその相続割合につき争いがあり、原審口頭弁論終結当時はもとより現在においてもその帰着をみない状況である(亡観太郎の相続税の修正申告書においての相続分の申告は暫定的持分を申告したに過ぎない。)。

そのため訴外延原倉庫は固定資産税を考慮して一方的に増額した賃料を相続人の相続分の割合が定まらないため債権者不確知を理由に法務局に供託しているのである。

3 ところが原判決は「共有物の管理行為である本件賃貸物件の賃料増額は過半数の持分を有する他の共有者による承諾によって有効に成立した」旨認定しているが、訴外延原倉庫が「相続分に争いがあり債権者不確知」を理由に供託しているのであって、まさしく本件は共有持分の割合が定まっていないため共有物の利用につき持分の価格に従い其過半数を以て之を決することが不可能であるのに、原判決が「共有物の管理行為である本件賃貸物件の賃料増額は過半数の持分を有する他の共有者による承諾によって有効に成立した」旨認定するのは論理的に明らかな矛盾である。

この点、原判決には民法二五二条の解釈適用の誤りがあると共にその理由に論理的に明白な矛盾があり破棄を免れない。

三、原判決には明らかな理由齟齬、論理矛盾の違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすこと明白である。

すなわち、原判決は第四理由控訴人の主張について3において、控訴人の主張を「さらに、控訴人は、仮に本件賃貸借契約の範囲、賃料が被控訴人主張のとおりであるとしても、遺産分割協議が末成立であるから控訴人の取得する賃料額は全賃料の四分の一とすべきである旨主張する。」と認定した上で、「弁論の全趣旨によれば、控訴人の取得する賃料額を賃料全額の四分の一であるとしてその税額を算出したことは合理的なものというべきであって」と認定しているのであるから論理必然的に控訴人の右主張は採用すべきものとなるにもかかわらず、原判決は「控訴人の右主張は採用することができない」旨認定しているのは明白な論理矛盾、理由齟齬の違法を犯しており破棄を免れない。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例